遠くで 近くで

普段から音楽をよく聴くようにしている。
それは好きだからだけではなく、その当時よく聴いていてその時の感情や表情、景色や風、周囲の人間関係などの記憶が蘇ってくる云わばアルバムの様な物だからだ。
頑張りたいとき、元気がないとき、嬉しいとき、緊張しているとき、自らを鼓舞するとき、落ち込みそうなとき、失恋したとき、何気ないとき、色んな時と場合に聴いているからこそ聴くだけでその時の思い出が蘇ってくるものになっている。

今までのことを思い出しながらも懐かしみ前向きな気持ちになることも多い。
ただ、心に余裕がなかったり辛いときや人前にいるときには聴くことができない曲があり、シャッフルにしていても飛ばしてしまう。


夜になるとたまに聴きたくなる。
それは、「遠くで近くで」という曲だ。馬場俊英さんというシンガーソングライターの曲だが、この曲を聴くとどうしても重ねてしまう人物がいるから普段は聴くことができない。
たまに聴いては思い出し、どうしようもない感情になってしまう。

重ねてしまう人物の彼との出会いは高校生だった。
存在を知ったのは中学生だったが、一方的なものだった。その後、高校で知り合うことになった。
同じ集団で同じ様に目標を持ち、日々過ごしてきた。特に深く話すようなことをしなくてもなんとなく分かるような部分もあった。
一緒になって努力し、憧れ、良きライバルとして居てくれた。
力不足で二人で涙を流したこともあった。
そんな彼とは大学でも一緒になって、高校と同じ様な関係でいられるのかと思っていた。
お互いを高め合えるような存在はなかなか出来るものでもないので何十年先まで大切にしたい関係だと感じていた。
その関係がなくなってしまったのは大学2年の春だった。
彼はもう帰ってこなかった。
今でも実感がなく信じられない。急に現れてもおかしくない。
聞いたときは自暴自棄になりそうなくらいだった。それくらいの存在だった。


彼を思い出してしまう「遠くで近くで」は好きだがあまり聴けない。
歌詞を見るだけでも思い出す。悲しくなるし辛くなる。

ただ、久しぶりにこの曲を聴いているとこう思う。
そんなに頑張らなくてよかった。息抜きしてほしかった。深く考えないでほしかった。
伝えたくても伝えられない。これほど辛いものはない。


「ふたりで泣いてた頃を今も時々思い出すんだ
 会えなくたってずっと僕ら友達だよね」

この歌詞はあまりにも重ねてしまう点が多い。
会えなくても友達だと思ってくれていればいいなといつも思う。